南武線の中に蝉がいた。
頭の上で『ジ、ジィ…!』とやられた時はびっくりしたが、それ以外は飛び回ることもなく、二人連れの青年達の足下で、実におとなしくしていた。
子供の頃は、よく虫かご一杯に捕まえたものだが、今となってはすすんで触る気もせず、私は、青年に蹴っ飛ばされはしないかと、心配しながら横目で眺めていた。
「どうする、コレ?」
「いいよ、ドア開いたら飛んでくだろ」
しかし、次の駅でドアが開いても、蝉はうんともすんとも言わない。
「………」
みかねた青年の一人が、蝉をむんずと掴んだ。
途端に『ジッ!ジジィ!ジジジジジィィッ!』と、蝉が抗議の声をあげる。
蝉は、ポイッと夜空に返された。
私には意外だった青年の優しさに、ちょっと心が温かくなった。
だが、もしかしたら、あの時蝉はこう言っていたのかもしれない。
『ちょっ!何しますのん!立川の嫁の実家に行かなあきまへんのや!』
頭の上で『ジ、ジィ…!』とやられた時はびっくりしたが、それ以外は飛び回ることもなく、二人連れの青年達の足下で、実におとなしくしていた。
子供の頃は、よく虫かご一杯に捕まえたものだが、今となってはすすんで触る気もせず、私は、青年に蹴っ飛ばされはしないかと、心配しながら横目で眺めていた。
「どうする、コレ?」
「いいよ、ドア開いたら飛んでくだろ」
しかし、次の駅でドアが開いても、蝉はうんともすんとも言わない。
「………」
みかねた青年の一人が、蝉をむんずと掴んだ。
途端に『ジッ!ジジィ!ジジジジジィィッ!』と、蝉が抗議の声をあげる。
蝉は、ポイッと夜空に返された。
私には意外だった青年の優しさに、ちょっと心が温かくなった。
だが、もしかしたら、あの時蝉はこう言っていたのかもしれない。
『ちょっ!何しますのん!立川の嫁の実家に行かなあきまへんのや!』